能 狂言『鬼滅の刃』を観てきた話【能楽観賞日記】#13

能 狂言『鬼滅の刃』
2022年7月29日(金)16:00の回
観世能楽堂

野村萬斎さんが演出を手掛けた『能 狂言 鬼滅の刃』。東京公演は先行販売で完売というプラチナチケットですが、運良く当選したので観てきました。鬼滅の知識はアニメ一期分のみ(この舞台のために見た程度)でしたが、それでも充分楽しめました。

↓公演の詳細情報はコチラ↓

■日程・会場
7/26(火)〜7/31(日) 東京・観世能楽堂 GINZA SIX
12/9(金)~12/11(日) 大阪・大槻能楽堂

■原作
「鬼滅の刃」吾峠呼世晴(集英社(「週刊少年ジャンプ」連載)

■主催
OFFICE OHTSUKI

■協力
集英社(「週刊少年ジャンプ」編集部)・公益財団法人 大槻能楽堂

■制作協力
万作の会

■監修
大槻文藏(能楽シテ方観世流人間国宝)

■演出/謡本補綴
野村萬斎(能楽狂言方和泉流)

■作調
亀井広忠(能楽大鼓方葛野流家元)

■原案台本
木ノ下裕一(木ノ下歌舞伎主宰)

■出演者
(シテ方)大槻文藏 大槻裕一 赤松禎友 武富康之 齊藤信輔 稲本幹汰
(狂言方)野村萬斎 野村裕基 野村太一郎 深田博治 高野和憲 内藤連 中村修一
(ワキ方)福王和幸・福王知登(※交互出演)
(囃子方)笛 竹市学
     小鼓 飯田清一・成田達志(※交互出演)
     大鼓 亀井広忠・原岡一之(※交互出演)
     太鼓 林雄一郎

そして、私が観に行った時の配役はコチラ↓↓↓

配役が発表された時、萬斎さんは3役と聞いていたのですが、4役に増えてて驚き!😳
しかも全部、主人公と密接に関わる役柄なだけに「全部、俺」感がすごいです(笑
あと無惨様以外は面を付けてる状態なので、できる技なのかな、とも思います。

万作の会の飯田さんが裏方で頑張っていたようです🤣

萬斎さん、去ったと思ったら、また直ぐ別の役で登場するので、着替えの速さに圧倒されました(笑)。声色の切り替えもお見事で、特に鱗滝さんと鎹鴉の時は、特に本業である狂言師としての本領を発揮しておられました。なので、萬斎ファンとしても十分楽しめる舞台になっておりました。

あと大鼓が亀井さん担当の時だったのも良きでした。ドキュメンタリーで野村家親子三代について語ってるのを見たことがありますが、家元としての風貌が素晴らしくて惹きつけられるものがありました。萬斎さんが三番叟を舞う時は、いつも亀井さんがいるので二人がセットだと安心感があります。

内容は「忙しい人のための鬼滅の刃」的な感じで場面がドンドン転換して行きますが、アニメ一期を観ただけの知識で充分脳内保管出来ました。なので鬼滅ファンであれば余裕で楽しめるかと思います。また狂言方が多数大活躍してるので普通のお能よりは敷居が低くなってるかと思います。

逆に有名なお能のオマージュもあり、また五番立(フルコース)がベースになってるので、能楽ファン視点から観てもとても楽しめました。発表当初、木ノ下さんが補綴を担当し、五番立の仕来りに忠実に当てはめて台本を書き上げたようですが(パンフに第一稿が載ってます)、これに萬斎さんが一本の舞台としてスムーズな流れになるように手を加えたようで、第一稿と多少前後してる部分がありました。なので、木ノ下さんが原案台本って形になったようですね。

元々『鬼滅の刃』は時代設定や人と鬼の関係性などから、能楽と相性が良いと言われてきましたが、実際に完成された舞台を見て、それは想像以上のものでした。

大人気漫画(二次元)が、能狂言になるとどんな感じになるんだろう?
萬斎さんはこの素材を使ってどう料理するんだろう?

という演出家「野村萬斎」に対する興味から観に行こうと思った舞台でしたが、実際に出されたものを観て、第一部が終わった時点で、速攻で「あ、すみませ〜ん、おかわりくださ〜い!!」って気分になりました(笑

鬼滅の刃の世界観とお能の世界観の親和性の高さはバツグンで、ちゃんと鬼滅が能狂言になっていた。てか双方の世界観がちゃんと共存出来ていたように感じました。こんなに相性が良いのだから、これきりにするのは勿体ない。

これは是非、再演もしくは続編を!!!!!

てか、2.5次元という言葉がなかった頃に制作された薄ミュ(=ミュージカル薄桜鬼)だって、何気にルートが多数あるの活かして10年続きましたからね。先日気づいて驚いちゃった💦
鬼滅能も無限列車編、遊郭編(んで、まだ続くんでしょ?)と続けるなり再演するなりして、息の長い作品になって欲しいわァ。

ただ、その際、引き続き能楽堂でやるのか、グレードアップしてホール公演にするのかが悩ましいところ。今回、初めて能楽堂に触れた方がたくさん居たようですが、初めての能楽堂を楽しんでくれてたご様子だったので、こういう体験から、普通のお能の会や狂言の公演にも興味を持ってくれると、鬼滅を能狂言でやる価値がさらに上がりますからね。

※冬には大阪公演が控えておりますので、ココから先ネタバレ注意(常にアップデートする萬斎さんのことだから、細かい演出は変えてきそうですが…)

ちょっとだけ、いつもと雰囲気が違う観世能楽堂。
普段は使用しない照明機材が置いてあり、階(きざはし)にも装飾が。

上演時間になると一気に客電が落ち、照明機材が点灯する。普段の公演では客電は点いたままなので能楽ファン的には、これもちょっと新鮮。色とりどりの照明は幻想的だし、客席が暗いとその分、舞台に“全集中”できるので個人的には好きかも。薪能的な雰囲気もちょっとあるかもしれない(薪能未経験だけど(ヲイ!w

暗闇の中、超完成度の高い洋装の無惨(萬斎)様が客席通路から登場。
てか気付いたら、直ぐそこまで来てました😳
物音も立てずにスッと現れたので忍者かよ!?ってちょっと思った(笑)

中正面の2列目、しかも通路側から二番目のお席だったので、超至近距離でしっかりと無惨様を観てしまいました😳

ただ、無惨様が客席の前で止まって辺りを見回した時、目が合いそうになって思わず目をそらしちゃった💦(ヘタレ過ぎる苦笑)。

以前、狂言座で萬斎さんが解説に出てきた時も同じことしちゃったんだけど、なんかもう恐れ多くて💦逆に近過ぎてもガン見出来ないッスね(苦笑)。その代わり、洋装の萬斎さんは線の細さが際立つなァ(惚れ惚れ)と全身を観ておりました😌

ちなみに、客席通路を通ってきたからマスクしてたんだけど、本番では白マスクの上に黒マスクで二重にしてました。んでその黒のマスクにはドクターXのロゴが入ってたそうですwww(ちゃんと見とけよ、私w

萬斎さんの遊び心、素敵😌

マスクをしていたので、その時のセリフはアテレコ(公式のインスタに上がってたレコーディングってコレだったのか?)でしたが、声が声優の関俊彦さんがやってんのかって思うくらいマジでそっくりでした😳
声オタとしては関俊彦さんのお声も好きなので、思い出せば思い出すほど、なんだか訳がわからなくなってきた🤣
鱗滝さんの声も寄せてる感じあったし、演出面ではアニメも参考にしてるのかな?🤔

セリフを言い終えると、無残様は草履を脱いで階(きざはし)を上がり本舞台へ。本来、この“きざはし”というのは、能楽が武家の式楽だった頃に用いたもので、お殿様が役者に褒美を与えられる際に使われていたそうで、現在ではほとんど使用することはありません。だけど萬斎さんは、この神聖な“きざはし”に装飾を加えることで、“きざはし”ではない別物として捉えることで、使用することにしたんですね。

あと能舞台の周りには白州が敷かれていますが、これは照明がなかった時代に太陽の反射光を利用するための照明器具の代わりであると同時に、見所と能舞台の間の結界的役割もあるそうなのですが、そんなの御構い無しに見所から現れ、階を登って舞台に上がる無惨様。しかも洋装だし。他のキャラクターは能楽の世界に上手く当てはめてた反面、無残様だけは能楽の世界観で見ると、とことん型破りで2.5次元な存在でした。

だけど、その型破りっぷりが、“鬼舞辻無惨”の特徴でもある“異質さ”を際立たせ、その存在感を完璧なモノにした。そして、その無惨様なら“きざはし”を使っても許されるような気にもなってしまう。これができるのは、シテ方とか狂言方とか枠を飛び越えられる新作能ならではだし、現代劇にも通じてる「野村萬斎」ならではとも感じました。

そして、伝統芸能の家に生まれ育ったにも関わらず、萬斎さんのこの判断の柔軟さには驚かされます。素人考えだと、能狂言だから無理やりにでも全て能楽の仕来りに従わないといけないような気にさせられるのですが、萬斎さんは初心者向けにエンタメ性を取り入れて、能楽の世界観を崩さないギリギリの範囲内で仕来りを崩してきた。その微妙なバランス感覚が天才だなと感じました。これだから、演出家としての萬斎さんも目が離せないのよ。

ちなみに草履を脱ぐとき、萬斎さん特有の品の良さが出ており、そこだけ上品な無惨様でした😌

てか冒頭の無惨様だけで語り過ぎ🤣
反省して、以降はサクサク行きます💦

 *・*・*

無惨様が立ち去ると、お囃子と地謡が登場。演出の都合上だと思いますが、お囃子と地謡の位置が、普段のお能と逆になってたのは新鮮でした。

中正面の2列目の視界

そして、、、

一番見たかったヒノカミ神楽は、嫌な予感が的中して柱が見事に邪魔してくれました😢

炭治郎役の裕一くんは問題ないんだけど、萬斎さんが見事に柱に隠れちゃう位置で😱
まぁ、それでも頑張って右に寄りつつ観ましたけどね。

それ以外は本舞台との距離感といい、橋掛りも丸見えで視界良好で良かったです。観世能楽堂の中正面もそんなに悪く無いかも(観世能楽堂では脇正面にしか座ったことがないので)。

萬斎さんと裕一くんの舞の技術力の差について気づいた方が何人か居たようですが、でもそれが逆に親子感あってリアルで良いよね。ヒノカミ神楽を継承するのに、息子の方が上手かったらお父さんの存在感がなくなっちゃうもんね(苦笑)。てか、萬斎さんの舞って人を魅了する上手さがあるんだなァと再確認。

個人的には、炭治郎の姿になった裕一くんが凄く魅力的に感じました。ゲネプロの時は髪をオールバックにしてたのかな?本番では髪を下ろしてたので、そっちの方が少年漫画の主人公らしくて好きだなと思いました。どんな場面でもブレないシテ方の凛とした佇まいと炭治郎の性格はとても相性が良いように思いました。

 *・*・*

狭霧山〜藤襲山の修行のシーンへ。

鱗滝(萬斎)さんが去る
   ↓
錆兎(裕基くん)が登場する
   ↓
声がそっくりだから、萬斎さんが去った気がしない😅
(二人とも面を着けてるから余計に)

炭治郎が最終選別に向かったと思ったら、速攻帰って来て、鱗滝さんが「7日経つの早ッ!(意訳)」と笑いに変えてたのサイコーでした。会場も大爆笑でした🤣

炭治郎が鱗滝さんの元へ戻ってくると、藤襲山での出来事を振り返るような形で、手鬼とのバトルが描かれるのですが、萬斎さんが会見で、表現が悩ましいと言っていた水の呼吸、そう来ましたか❗😌…と思いました(新体操のリボン的な)

会場はちょっと微笑って感じでしたが、裕一くんの刀の先についたブルーのリボン捌きがお見事で、アニメで見た水の呼吸のシーンがそのまま脳内でイメージできたので、とても良かったと思います😌

 *・*・*

太一郎さん扮する鋼鐵塚さんによる刀鍛冶のシーン(一人狂言)では、しっかり笑いを取っていて、流石、狂言界のプリンスと思いました。Twitter上でも、鋼鐵塚さんの人が良かった、面白かったと書いてる感想をチラホラみかけたので、何故か自分でも嬉しくなりました。

 *・*・*

原作の何倍あるんだ?ってくらいデカい箱の中から、禰豆子(裕一くん)が登場し舞を舞う。台本第一稿の段階では、いろいろとストーリー(過去の話)を考えていたようですが、本番では舞のみに絞っていました。お能と聞いて思い浮かぶのは、女面を付けて舞ってる姿がメジャーだと思うので、ある意味、お能らしさが感じられる場面かも。もちろん禰豆子なので、ちゃんと竹は咥えているが(竹を加えた女面、ちゃんと作ったんだと思って感心してしまった)。

 *・*・*

ここで30分の休憩。
通常のお能の会だと10〜20分程度なので、トイレにも行きやすくて良いですね。

 *・*・*

後半は平安時代の無惨様のパートからスタート。無惨様が鬼になった理由は知らなかったので、ここで初めて知ることに。萬斎さんの語りが上手いので、原作は観たことないのに鮮明にイメージ出来たし、原作を最後まで読んでみたくなりました。

てか、平安スタイルの無惨様というか萬斎さんが、目の保養過ぎて😳💕

洋装無惨様の型破りっぷりから比べると、こっちはとことんお能の世界って感じで、その対比も良き。

 *・*・*

ガラッと変わって、三羽の鎹鴉(雀)による狂言パートは、まさに万作の会の狂言そのものでした🤣
てか、高野さんをうこぎ(チュン太郎)役にしたの、ナイスキャスティングでした🤣
個人的にツボでした。とても可愛かったです(笑)

以前、パルテノン多摩での公演で、高野さんが解説の時にネタで、チチと鳴く雀とコーガコーガと鳴く鴉が親子だという話をしていたのですが、まさか実際に狂言で見れるときがくるとは🤣
ちなみに、これで笑えない人は、狂言向いてないそうです(苦笑

三羽の鎹鴉(雀)の座談会というか酒盛りが終わると、善逸(裕基くん)がスキップで登場🤣
さっき無惨様が型破りだと言いましたが、善逸も太郎冠者のような雰囲気を残しつつも、型破りな存在かもしれません。だって普通狂言でスキップしてお客さんをナンパしたりしないでしょ?ちょっと現代語寄りだし🤣

善逸も、見た目は装束だけ合わせたものでしたが、喋り方とか仕草はアニメからそのまま飛び出してきたようなキャラになってました🤣
善逸お気に入りなので、イメージそのまんまで嬉しかったです🤣

てか再現度高くて、萬斎・裕基親子スゴイな!って思った🤣

 *・*・*

炭治郎と伊之助(猪のお面が可愛い)も合流して、那田蜘蛛山のシーンへ。いよいよクライマックス。少年漫画としてはバトルシーンは欠かせないものですが、主人公たちVSシテ方の皆さんによる戦いのシーンは、修羅物の舞を観てるような感覚でカッコ良かったです。

中でも、本作のラスボス累が人間国宝ってのが胸熱。お能の有名な演目『土蜘蛛』を観たことがなかったので、蜘蛛の糸ってこんなにキレイに飛ぶんだ⁉️とちょっと感動。そして、最期に累の家族が迎えにきたシーンは心に暖かいものを感じました。

 *・*・*

累が倒され、洋装無惨様がマスクなしで再び登場。
観客に血を分け与え、炭治郎を殺せと命令する無惨様。
このまま無限列車編に繋がりそうな終わり方だったので、続編に期待。

見終わって思ったことは作り手の原作リスペクトがあれば、どんなジャンルでも素晴らしい作品になるんだな、と。そして奇跡の舞台だったなと。どんなに鬼滅と能楽の相性が良くても、それを上手く料理できる脚本家と演出家、そして演者がいなければ成り立たないですからね。

この漫画『鬼滅の刃』が生まれた時代に、能楽と現代劇に精通した「野村萬斎」という役者兼演出家が居たこと。そして、裕一さん、裕基さん、太一郎さんという、実力のある素晴らしい若手の能楽師が居たからこそ、出来た舞台だと思いました。

そして、その舞台を運良く観れた自分は幸せ者だと思いました😌

新型コロナ第7波の影響で、数々の演劇が公演中止になるなか、この鬼滅もどうなることかと思いましたが、東京公演は無事完走ということで一安心。厳しい状況の中、演者・スタッフの皆様、お疲れ様でした。

大阪公演も無事完走できるよう、祈っております。(てか、早よコロナ治らんかい!)

▼前回の能楽鑑賞日記はコチラ

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