人生初の薪能体験!【能楽観賞日記】#15
第53回 相模薪能
寒川神社境内 特設能舞台
2022年8月15日(月) 17:30開演
毎年8月15日の終戦記念日に行われてる寒川神社の『相模薪能』。入場無料ですが事前に往復葉書による申し込みが必要とのことで、申し込んでみたら無事当選したので行ってきました。
ちなみに入場券は入場時に回収されちゃうので手元には残っておりません。写真に撮っておいてよかった(笑
寒川神社には初めて行きましたが、最寄駅は無人駅(初詣シーズン等は臨時で駅員が派遣されてるらしい)で久しぶりに田舎に来たような気分を味わえましたが、コンビニが1件あるので不便さはなく、また参拝するため少し早めに向かいましたが、神社の敷地内は緑に囲まれており、自然を感じながら休める場所も多かったので良かったです。でも帰り道は真っ暗で、ちょっと怖かった(苦笑
一昨年はコロナで、去年は台風で中止になりましたが、今年は天気に恵まれ3年ぶりの開催となりました。私もホントは春の夜桜能で薪能を初体験するはずが、雨でホール公演になってしまったので、今回が人生初の薪能体験となりました。でも当時より今の方がお能の面白さに気付けているので、薪能初体験はこのタイミングでよかったのかもしれません(苦笑
自由席だったので、開場1時間前に待機列に並んで、そこそこの位置をゲット。正面席は招待席だったので、中正面の通路側の端っこに座ることにしました。列としては後ろ寄りにはなりましたが、正面席に近い感じで舞台全体を観れる位置。イメージとしては観世能楽堂の中正面席に似てると思います。どこで観ようか直前まで悩んでたけど、なかなか良い位置の座席に座れて良かったです。
ただ、会場の規模的に全然肉眼で観れる距離なんだけど、ワタクシ視力が落ちており、少し遠くなっただけで、人の顔だけがボヤけて見えるのよな…。日常生活には支障ないけど、演劇を観る時用にメガネ作った方がいいんじゃないかって毎回思うわ(苦笑)。
ということで、今回は単眼鏡が手放せなかったのですが、普段能楽堂で後方の席の時に使用している6倍で事足りました。距離感が分からなかったので、一応GLAY用で使ってる12倍の双眼鏡も持って行ったんだけど(爆)要らなかったですね。ただ後方には段差のあるスタンド席があり、そこで観るんだったら8倍の方が良いかもと思ったり。
相模薪能は、かつて日本のために命を捧げた英霊と戦争犠牲者の御霊を慰め、世界平和を祈念する神事能という事で、演目の前に、舞台と演者と観客のお清めの儀式や黙祷などがありました。個人的には祖父が二人とも戦死しているので、やはり戦争については“遠い昔のこと”で片付けられないものを感じます。生まれた時から祖父が居なかったので、子供のころはよく、“おじいちゃんって、孫にとってどんな存在なのか”なんてことを考えてたりもしました。
一通り儀式を終えると、そのまま演目へ。まだ空が明るいうちに始まった『箙』は、後シテが出てきた頃には日が落ちて幻想的な雰囲気になり、その自然界ならではの演出が印象的でした。
夜になっても暑さが残っておりましたが、野外ライブの時同様、たまに吹く夜風が心地よく、何より虫の音と共に観る能楽は風流があり、良き体験をさせて頂きました。昔の人もこんな感じで能楽を観ていたのかしら?ちなみに外国人には虫の音は雑音にしか聴こえないらしいので、そういう意味では日本人で良かったなとも思ったり。
能「箙」(観世流)
里人/梶原景季(シテ):観世喜正
旅僧(ワキ):則久英志
従僧(ワキツレ):小林克都
生田ノ里人(アイ):石田淡朗
【あらすじ】旅の僧(ワキ)は生田川で梅を眺める男(シテ)と出会い、源平の合戦の折、梶原景季公がこの梅を箙に差して戦った話を聞く。男は合戦の様を語る内に景季の幽霊であると明かす。一ノ谷の合戦での雄姿を見せ、僧に自分の供養を頼むと姿を消すのだった。
*・*・*
能『箙』は、初見でしたが大好きな修羅物ということもあり、普段の能楽堂とは違う灯りの中で舞うシテに魅入ってしまいました😳✨
喜正さんの景季、カッコ良かった~(惚)✨
これは、ずっと観ていられる。終わって欲しくなかったw
狂言「墨塗」
大名:野村萬斎
太郎冠者:内藤連
女:中村修一
後見:月崎晴夫
【あらすじ】訴訟事のため、永らく都に滞在していた田舎大名は、訴訟も無事に済み、近々帰郷することになる。しかし、在京中に親しくなった女のもとへ召使いと伴って別れの挨拶に立ち寄ることに。暇乞いの事実を知らされた女は、別れを惜しんで泣き始めるが、その挙動に不審を感じた召使いは思いもよらぬ行動に出る。今も昔も変わらぬ男女の人間模様は、虚々実々の駆け引きが真剣ゆえに笑いを誘い、また召使いの作戦が見どころである。
*・*・*
休憩を挟んで狂言『墨塗』。小道具にガチの墨を使ってるのが面白い演目です。女の嘘泣きに気付いた真面目な太郎冠者は、大名にその事実を訴えますが信じてもらえないので、女が嘘泣きに使っていたお水をこっそり墨にすり替えてしまいます(笑)。そして嘘泣きを続ける女の目の下はどんどん黒くなっていき…🤣
大名役の萬斎さんを観る機会が結構多いんだけど、今回の萬斎大名もチャーミングでした👍
別れが言いづらいから太郎冠者に言わせようとしたり、女の嘘泣きに気付かず一緒に涙したりと人間味あふれる大名様を表情や動き、声のトーンと絶妙な間で演じきり、観客を笑いに引き込んでおりました。流石です😊
てか、大名が女の嘘泣き(墨塗)に気付いた時の驚きっぷり→騙されてたと気づいてトーンダウン→おい、太郎冠者ちょっと来い、これはどういうことだ?(意訳)、の流れが絶妙で笑いが止まらなかった😂そして、女に鏡を渡した時の大名の顔は完全にいたずらっ子がイタズラを仕掛けた時の顔でした😂
内藤さんは以前「蚊相撲」の時も最後理不尽な目に遭う太郎冠者を演じてて好印象だったのですが、今回も真面目な太郎冠者役が合ってるなァと思いました。中村さんの女役も以前観ておりますが、やはりこちらも似合ってるな、と。両者はまり役だったと思います。今回もナイス配役でした👍
能「巻絹」
巫女(シテ):中森貫太
都ノ男(ツレ):中森健之介
臣下(ワキ):殿田謙吉
下人(アイ):飯田豪
【あらすじ】勅命によって熊野本宮へ絹を運んでいた都の男(ツレ)、本宮に到着後、境内に祀られていた音無天神へ参詣し、和歌を神に捧げる。その後、彼は絹を届けに向かうが、期日は既に過ぎた後であった。勅使(ワキ)が懲罰として男を縛り上げると、神憑りになった巫女(シテ)が現れ、神は男の歌を納受したのだからその男を放すように言う。神託を疑う勅使に対し、巫女は男に歌の上句を詠ませた上で自らその下句を言い当て、神託の正しさを証明して男を釈放する。巫女は、口に出さずとも心に念じれば神はそれを納受すると述べると、神仏の道を体現する和歌の徳を讃えて舞う。やがて、巫女は神の帰還を願うべく神楽を奉納するが、熊野の神々が次々と彼女に憑依し、再び神憑りとなって激しく舞うのだった。
*・*・*
開始早々、ワキと共に飯田さんが登場して、アイにはこんなパターンもあるのかと新たな発見がありました(都の男を縛る役目でした)。
今回は貫太先生と健之介さんとの親子共演でした。萬斎さん親子同様、貫太先生親子も声が似てるんだなァと思った(そして好みの声)。DNAって凄い。『箙』が男性シテなのに対し、こちらは巫女がシテという対比も良かったです。可愛らしい顔立ちの面を使っており、こちらの舞も素晴らしく、とても素敵な巫女様でした。
今回は全て幻想的な薪能に合った演目で大変満足でした。
暑い中、並んだりするのは大変だけど、普段とは違う素晴らしい体験をして、また機会があったら行きたいなぁと思いました。
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