戯曲リーディング「ハムレット」

ドクターXで萬斎沼に落ちてから約3ヶ月。

ついに、野村萬斎さんを生で拝見する時がやってきました!

ということで、、、萬斎さんが演出した一夜限りの戯曲リーディング「ハムレット」を観てきました。

戯曲リーディング『ハムレット』より
2022年2月27日(日) 18:30開演
世田谷パブリックシアター
A席 3階 B列

[作]ウィリアム・シェイクスピア
[翻訳]河合祥一郎
[演出]野村萬斎

[出演]
・野村萬斎 :ハムレットの父の亡霊/座長/劇中王
・野村裕基 :ハムレット
・吉見一豊 :ポローニアス
・若村麻由美:ガートルード
・山崎薫  :オフィーリア
・星智也  :クローディアス
・月崎晴夫 :ヴォルティマンド/役者たち/廷臣/墓掘り
・浦野真介 :フランシスコ/役者たち/廷臣/使者/オズリック
・神保良介 :マーセラス/役者たち/ルシエーナス/廷臣/隊長
・武田桂  :レアーティーズ/役者たち/廷臣
・遠山悠介 :バナードー/役者たち/劇中王妃/フィーティンブラス
・森永友基 :ホレイシオ

[物語]
父である先王の亡霊から死の経緯を知らされたハムレットは、その死を仕組んだ叔父クローディアスへの復讐を誓い狂気を装う。この復讐計画により、ハムレットを慕うオフィーリアや、王妃となった母親ガートルードをはじめ、彼の周りの人々は運命を狂わされていく。

萬斎さんは3月で世田谷パブリックシアターの芸術監督を退任するので、芸術監督としての萬斎さんを拝見する最初で最後のチャンスだと思い、チケ取りに挑んだら運良く取れたので、あぁ、これは萬斎沼を突き進めという神のお導きだなと思いました(笑

因みに、世田谷パブリックシアターに行くのは今回が初めてでしたが、ホームページを見たときに何か見覚えあるなァと思ったら、数年前に観たミキシンの舞台を上演した劇場が同じ系列のシアタートラムでした(2列目のド真ん中で観れたのが良い思い出)。

今回は主劇場にて、3階席2列目センター寄りからの観劇でしたが、座席の高さは視界を計算された作りになっており、舞台全体がとても見易かったです。どの座席も見易そうだし雰囲気もお洒落で、こちらも良い劇場だと思いました。あと客席内は携帯の電波を遮断しており、こういう配慮も良いなと思いました。ただ先日、講談師の神田伯山さんがラジオで講談をSiriに邪魔された話をされてたので(苦笑)、電源が切れるものはちゃんと切っておきましょうね。

●一夜限りの戯曲リーディング

まずは、萬斎さんによるリーディング公演についての解説からスタート。私は観劇経験は2.5次元含め何度かあるけれど、リーディング公演は初めてだったので事前にググったりしたのですが、こうして事前解説をつけてくれるのは有難いですね。

リーディング公演というのはその名の通り、観客に公開した状態で、俳優が台本を持って読み合わせを行うことなのですが、朗読劇と違う部分は、舞台上で実際にどう演じるか?という役者の動きも付いてくるという部分でしょうか。ゲームで言ったら開発途中の作品をテストプレイさせてもらう感じかなァ(まぁ、体験版ではエンディングまでやらせてもらえませんが・笑)これで観客の反応を見て、実際に舞台化するか否か決めるのが、リーディング公演の本来の目的となるようです。

つまり萬斎さんは芸術監督の最後の仕事として、「ハムレット」本公演に向けて世田谷パブリックシアターに種蒔きをしたわけです。実際に、次はいち演出家・出演者として戻って来たいという意欲を見せており、〝終〟ではなく〝始〟で締めくくる萬斎さんの計らいと意欲に、「ハムレット」本公演を含め、今後の活躍がますます楽しみになってきました。

そして、それを実現するためには、とにかく俳優も観客も“生き”なければなりません。本公演では『ハムレット』の中でも特に有名な台詞「To be, or not to be,(生か 死か)」に着目し、作品自体は悲劇でありながらも、こういうご時世だからこそ、解説や本編の演出でも萬斎さんの出した答えとして〝生きること〟に執着しているように感じられました。

ちなみに、萬斎さんの素晴らしい発音の「To be」を聴いているうちに、ふと、あのスクエニの神ゲー『NieR:Automata』(←アニメ化決定オメデトウ!)の主人公の名前「2B」って、ここから来てるのか?と思って、調べてみたら、それをネタにしてる記事がありました。

■『NieR:Automata』機械の演ずるシェイクスピアに心を感じるか?愛憎劇に薫る古典文学【ゲームで英語漬け#26】
https://www.gamespark.jp/article/2020/09/13/102127.html

お恥ずかしながらシェイクスピアの存在は知っていても、実際に作品を読んだことはなくて、今回のリーディング公演に向けて初めて「ハムレット」をちゃんと読んだんですよね。ダメだなー、有名どころはちゃんと抑えておかないと……と思った瞬間でした(苦笑

ちなみに『NieR:Automata』のゲーム中に出てくる「ロミオ(達)とジュリエット(達)」が、ヨコオワールド全開で好きですw
これもちゃんと意味があったんだなァ(多分

ええと、話を戻して・・・

萬斎さんは今回のリーディング公演の解説として、聴くだけでなく「少しは観れるんですよ」と控えめに仰っていましたが、少しどころではなく、舞台としては8〜9割は出来てるんじゃないかと思うほど、かなり完成度の高い作品になっておりました。リーディング公演なので、衣装も小道具も最小限に抑えた舞台ですが、そこは狂言の舞台にも通ずるものがあり、限られた中で表現するのは、萬斎さんも得意とする分野だったのではないかと思います。

そして、パンフレットには「古典劇としてではなく、現代劇として演出します」と書かれていた通り、脚本はほぼ原作通りにも関わらず、本業が能楽師である“野村萬斎”氏が演出をしたことで「ハムレット」が、狂言×シェイクスピアという新しい演劇になっていました。演出ひとつであの「ハムレット」が、こんなにも面白くなるのかと感心しました(実際に笑いの要素はそこまで多くなかったけど、今流行りのネタも取り込んでおり、元々5分に1回は笑わせようと思ってたらしいw)。

配役は当日までのお楽しみだったわけですが、白く長い羽織をなびかせ、いい声の謡で父の亡霊を和風に表現する萬斎さんには魅了されました。てかドクターXの時も思ったけど、霊的なものを演じさせた時に違和感なくピタッとハマるの何でだろ?陰陽師のイメージが強過ぎるんだろうか???🤔

設定は〝洋〟なのに唐突に〝和〟の音楽も使われてたりして、〝和〟と〝洋〟の化学反応的なものを試されてるのかなとも思いました。これを一般の舞台でやったら、ただのチグハグで終わってたと思うけど、そこに〝和〟と〝洋〟両方の芸術に精通した“野村萬斎”という役者が入り込むことにより、彼自身が〝和〟と〝洋〟の緩衝材的役目を果たしているような気がして、そこまで大きな違和感は感じませんでした。なんかフシギ。萬斎さん、不思議な人だ。だからこんなにも惹かれるのかもしれない。

●ポストトークにて

今回、主役のハムレットを演じたのは、萬斎さんの息子の裕基くんでした。実は彼、狂言以外の舞台に立ったのが今回が初めてだったそうで、演技中はそんなことを微塵も感じない堂々とした演技だったので驚きでした(まぁ人前に立つのは狂言で慣れてるだろうしね)。

型が決まってる狂言と違い、自分で考えて演じなければならない現代劇に戸惑いがあったようですが、お父さんに似て、素晴らしい声色と発声の持ち主で、背丈もモデル並みだし、今は目の前の役を演じることで精一杯って感じでしたが、その辺は場数を踏めば慣れて行くだろうし、本人にその気があるのであれば、将来はお父さんのように多方面で活躍できる役者になれるのではないかな、と感じました。

あと、最後のハムレットとレアティーズの決闘シーン(足拍子で表現されてるのが良かったです)を見て、もしやと思ったけど、昔のドキュメントで裕基くんが幼い頃にお父さんの舞台を観て「パパ死んじゃ嫌だー!」って泣いてたシーンがあったのですが、あの舞台も「ハムレット」だったんですね。

今回有難いことに、芸術監督20年の歩みをまとめた冊子をもらえたのですが、そこに載ってた写真を見て、あ、コレだ!と確認しました。かつて萬斎さんが演じたハムレットを今度は息子の裕基くんが演じる。しかも初めての現代劇の舞台で。そういえば先日、藤岡弘、さんのご子息の真威人くんも、父がかつて演じた仮面ライダー1号を映画でやってたよねぇ。予告でしか見てないけど、こういう展開胸熱ですよねぇ。😊

あとポストトークで印象的だったのが、どの役者さんも口を揃えて、観客の前で演じられることが、役者にとって喜びでありエネルギーであると仰っていたこと。配信ってテレビと一緒で、役者と視聴者の関係は一方通行だし、映画もどちらかというと役者と観客の関係は間接的だし、リアルタイムでひとつの空間を共有し合えるのは生の舞台だけなんですよね。音楽もエレキギターの生演奏だったので、ライブ感に拘ったのかな。

自分もコロナ前は好きなバンドのライブに良く行ってたし、同じ演劇を二日続けて観に行ったこともあるので、昨日よりも今日、今日よりも明日とアップデートされていく生の舞台の素晴らしさと重要性は良く分かります。

今回はコロナ禍でのリーディング公演ということで、役者は全員マスクを着用しての演劇で、お顔が拝見できないのは残念でしたが、役者と観客、両者への配慮という点では好印象でした(萬斎さんに関しては来月に本業である狂言を観に行く予定があるので、お顔を拝見するのは、それまでのお楽しみということにしておきませう)。てか、マスク姿も「いのちだいじに」作戦なのかと思えば、これもある意味「生きる」「生き抜く」という決意に対するひとつの表現なのかな、と勝手に思ったりもしてます(笑

「To be, or not to be,」

今回の公演を振り返ってみて、舞台を観に行くこと=生きてる喜びを共有し合うことなのだと、改めて教えられたような気がしました。近い将来、マスク無しで本公演の「ハムレット」が、世田谷パブリックシアターで観れる日が来ると良いなァ(チケ取り大変そうだけど・汗)。

今回は萬斎さんに、とても面白いものを観せて頂いたので、狂言も観に行くけど、舞台の方もまた機会があったら観に行きたいと思います。

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