ゲーマーが人生初の能楽鑑賞に行ってきた話【能楽観賞日記】#1
野村萬斎さん目当てで、人生初の能楽鑑賞に行って来ました。
ドクターXをキッカケに、最初は俳優としての萬斎さんの魅力にハマった訳ですが、萬斎さんの持つ唯一無二の魅力的な演技力を語る上で、彼のルーツとなる「狂言」は避けては通れません。むしろ日本の伝統芸能に触れる良いキッカケだと思い、このチャンスを逃してはならないと思いました。
私はゲームでも和風モノが好きなのですが、結局それは外側だけでした。『薄桜鬼』をプレイして幕末を知り、『仁王』をプレイして戦国時代をやっと理解した程度の知識です。そして海外製の『Ghost of Tsushima』をプレイした時、外国の人が日本の侍文化をここまで深く理解していたことに驚き、日本人として自国の文化にもっと目を向けないといけないなァと感じたのでした。
そう考えると、このタイミングで萬斎沼に落ちたのは、ある意味運命だったのかもしれません(ぇ?w
んで今回、人生初の能楽鑑賞として選んだ公演がコチラ↓
横浜能楽堂
2022年3月9日(水) 開演:14:00
正面席 10列
解説「能の子方」 中森貫太
狂言「名取川」
シテ: 野村萬斎
アド: 高野和憲
地謡: 野村裕基、野村太一郎、内藤 連、飯田 豪
後見: 中村修一
能「隅田川」
シテ: 中森貫太
子方: 中森陽大
ワキ: 殿田謙吉
ワキツレ: 舘田善博
笛: 竹市 学
小鼓: 幸 正昭
大鼓: 亀井広忠
地頭: 観世喜正 他
後見: 奥川恒治 他
狂言師が主催する狂言のみの公演もあるのですが、良い機会なので「能」も一緒に観てみたいということで、「能」と「狂言」がセットになった公演を選びました。
ちなみに「能」は昔のミュージカル、「狂言」は昔のコント(と言っても台詞劇で小道具も最小限なので、コントと漫才の中間と言った方が近いかなと個人的に思います)という位置付けになります。「能」の方は謡がメインなので、狂言より難しい印象がありますが、字幕解説付きなので公演名通り、初心者でも安心して楽しめる内容になっていました。
鎌倉能舞台が行なっているこの「能を知る会」シリーズは、東京・横浜・鎌倉にて年に数回、毎年行われてる様なので、これから能楽鑑賞デビューする方にオススメの公演です。終演後には質疑応答もありました。
古典芸能というのは基本的に昔の言葉で喋るため、いきなり観ても訳が分からないと思います。自分も「狂言」って何ぞや???から始まり(苦笑)、YouTubeで狂言のダイジェスト動画をいきなり観ても、なかなか内容が理解できませんでした。
・・・が、萬斎さんが過去にYouTubeにて、狂言の喜怒哀楽の型をレクチャーする動画を上げてくれていて、それを観たら、狂言の内容がスッと入ってくるようになり、狂言の型の美しさの先にある笑いが理解できるようになりました。喜怒哀楽って全人類共通ですからね。基本中の基本ですよね。以降、YouTubeで狂言を見る機会が増え、生でフルで観れるこの日をとても楽しみにしていました。
狂言「名取川」
シテ(主役)は、比叡山で受戒をした遠国の僧。「希代(きたい)坊」という名を貰うのですが、物覚えが悪いため、もう一つ名前を付けてくれと言って「不祥(ふしょう)坊」という名も貰います。物覚えが悪いなら一つに絞った方が良いのではと思わなくもないが(笑)。さらには、忘れても思い出せる様にと、両袖に貰った名前を書き付けて帰途につきます。
この主役の僧を萬斎さんが演じる訳ですが、終盤にアド(脇役)が登場するまで、一人で台詞を喋り続け、道中貰った名前を忘れないようにと、名前を謡い、小舞も披露しながら帰るという、芸づくしの演目でした。
僧は帰路の途中、大河に行き当たってしまいます。橋が見当たらないので、歩いて渡ろうとした結果、深みに嵌ってずぶ濡れに。二つの名も忘れてしまい、袖を見て確認しようとするも、水に濡れて消えてしまっていました。そこで僧は、名前が川に流されてしまったと思い込み、謡いながら笠で名前をすくおうとします。
狂言では珍しい地謡(バックコーラス)付きです。息子の裕基くんも参加しており、『ハムレット』に引き続き、こちらでも親子共演を観ることに。次に行く予定の公演では裕基くんの狂言も観れるハズ。こちらも楽しみデス。
ここで漸くアドが登場。僧の身でありながら川で雑魚ばかりすくってるので、男が声をかけます。僧が男に川の名を尋ねると、川の名は『名取川』だと言い、男の名は『名取の何某』だと言いました。これを聞いた僧は、その男に名前を取られたと思い込み(笑)、名を返せと詰め寄ります。果たして僧は二つの名前を取り戻す(!?)ことができたのでしょうか・・・というのが、狂言「名取川」のお話です。
ちょっと物覚えが悪い、間抜けな僧を萬斎さんが愛嬌良く演じており、とても楽しい演目でした。狂言師としては「40、50は鼻垂れ小僧」と言うらしいですが、3歳でデビューして50歳も過ぎれば余裕でベテランの域。人生初の能楽鑑賞で、萬斎さんの指先まで意識が行き届いてる美しい所作と良い声の話芸を堪能できて幸せでした。てか、生で観るプロの狂言師の芸は圧巻でした。これからも色んな演目を観たくなりました。
能「隅田川」
人買いにさらわれた我が子を探して、隅田川までたどり着いた狂女の悲劇を描いた演目です。狂女物といわれる演目では通常ハッピーエンドで終わる作品が多い中、「隅田川」は探していた我が子は病死していたという結末で、我が子の亡霊と対面するも、我が子を抱きしめられない母親の悲嘆が描かれています。
実際にシテの中森貫太さんが演じた狂女の背中には哀愁を感じてしまい、流石だなと思いました。子方(子役)が居ないと出来ない演目なので、上演は久しぶりのようでした。
その子方を演じたのが、貫太さんのお孫さんで3歳になったばかり!の陽大くん。今回が初舞台ということで、解説の時に、もしかしたら上手く出来ないかもしれない(祖父バカを発揮してしまい、今回は演目的にまだ早すぎたらしい)と仰っていましたが、大勢の観客の前でも動じず、堂々と、かつマイペースに初舞台をこなしていたので、将来大物になったりして(笑
てか、あまりの可愛さに、悲劇にもかかわらず客席からは微笑がおきてました。素顔での登場なので可愛らしさ全開で、貫太さんが祖父バカ発揮しちゃうのも、分からなくもないなと思いました(笑
今は笑って許される年齢でも、子方でもある程度の年齢になったら大人の演技をしなきゃいけない、でないと客が付いてこないのだと貫太さんが解説してましたけど、また数年後に陽大くんがどう成長したか、この演目で観てみたいと思いました。
貫太さんの解説も分かりやすく優しい雰囲気の方なので、また機会があれば「能を知る会」観に行きたいと思います。鎌倉能舞台のYouTubeの方でも、能楽や衣装について解説されてて、なかなか興味深い話が聞けるので、オススメです。
最近の衣装は息子サイズで作ってるので、貫太さん的には大きいらしいのですが(笑)、江戸時代から受け継いで来た着物なんかは丈が短いんですよね。あ、本当に江戸時代の人たちって背丈が低かったんだって思いました。こういうところで歴史を感じられるのって面白いですよね。
ということで、人生初の能楽鑑賞体験記は以上です。
能楽堂に行ったのも今回が初めてでしたが、写真で見るよりも舞台と客席の距離感が近くて、後ろの列でもオペラグラスが要らない距離感でした。普段は某ロックバンドのアリーナツアーとかばかり参加してるからサ、こういう距離感で観れるの凄い嬉しいわ(笑
能楽堂独特の落ち着いた雰囲気も良かったし、何より能楽堂で聴いた萬斎さんの第一声にゾクゾクしました。今回は正面席からの鑑賞でしたが、能楽堂の場合、脇正面席・中正面席と3方向から舞台を見る形になってるので、そちらからも観てみたい。そしてベストポジションを見つけたい(笑
なので、ご時世的にチケットが取りやすくなってることもあり、暫くは能楽鑑賞の趣味が続きそうです。