満を持して東京初上演!新作能「白雪姫」【能楽観賞日記】#7

第2回 野村太一郎 能楽特別公演
新作能「白雪姫」
〜八世野村万歳(五世野村万之丞)十七回忌追善特別公演〜

2022年6月4日(土)13:00 開演

現在、万作の会のメンバーとして活躍し、狂言方のホープと呼ばれている野村太一郎さん。過去にはCM出演をしていたり、近年ではお笑いコンビ「すゑひろがりず」のチャンネルでコラボしてたので、知ってる方も多いのでは?彼は野村万蔵家の直系長男に生まれましたが、14歳のときに父・五世野村万之丞を亡くし、以降、祖父と叔父の元で修行を続けるものの、2017年には万蔵家を離れ万作家へ。父の従弟である野村萬斎さんに師事を替え、現在に至ります。

そんな彼のお父様の十七回忌追善特別公演を自らの手で行うということで、今年能楽鑑賞デビューしたばかりのペーペーが参加することに恐縮する気持ちも多少あったのですが、流派やお家を超えた豪華な番組・出演者に、これは是非観たいと思い、普段土曜日は仕事なので土曜日の公演は諦めることが多いのですが、この日はたまたま有給を使っても問題なさそうだったので、意を決して行って来ました。

本来であれば一昨年に行われるはずだった本公演。当時はまだ狂言のことも知らなかったことを考えると、コロナ禍で延期して巡り巡ってこのタイミングになったことに、これもまた一つの縁なのかなと感じました。

無料で配られたパンフレットには、太一郎さんと萬斎さんの五世万之丞さんに対する想いが綴られており、それが知れたのは大きな収穫といいますか、萬斎さんへの想いはもちろん、太一郎さんへの応援の想いも一段と強くなりました。万蔵家と万作家は過去にいろいろあったようで、この辺に関してはググればいろいろ出て来ますし、何より当時を知らない部外者なので詳細は割愛しますが、道半ばで活動拠点を変える、しかも父と確執があった相手に弟子入りするということは、それ相応の事情と覚悟があったのだろうと推測できるので、太一郎さんが現在、萬斎さんの元で狂言師として望んだ活動が出来ているのであれば嬉しいですし、これからも太一郎さんが望む、狂言師としての道を歩んで欲しいと願わずにはいられない、そんな気持ちになりました。

そして、そんな太一郎さんを受け入れた萬斎さんも懐が深いな、と。パンフの挨拶文では、万之丞さんのことを愛称の“耕ちゃん”と書いており、それを見て子供時代は本当に仲が良かったのだろうと感じましたし、それ故に敵視された時の戸惑いや疑念も文面から滲み出ているように感じました。万之丞さんの経歴を見ると、萬斎さんと同様、狂言師の枠を超えて、プロデューサー・演出家・劇作家・学者・役者などなど多方面でご活躍されており、意外と似た者同士に感じます。父を亡くした太一郎さんが新たな拠点を求めて萬斎さんの元へ来たのも、今となっては運命だったのかもしれません。

萬斎さんと万之丞さんが、能楽界の未来を想う気持ちは両者同じ筈なのに、考え方の違いからすれ違ったままになってしまったのは残念ですが、両者の想いを引き継ぐ太一郎さんが、この日の公演のような、能と狂言、または流派やお家を超えた活躍をしていくことで、能楽界の未来は明るいものになっていくのではないかと思います。まさに太一郎さんは狂言方、いや能楽界のホープなのだと、改めて感じました。

前置きが長くなりましたが、以下、会場&演目の感想。

二十五世観世左近記念 観世能楽堂

大型複合施設GINZA SIXの地下3階にある観世流の活動拠点。ビルの構造がそうさせてるのか、座席表を見ると見所がかなり縦長に感じるんですが、実際はそこまで縦長に感じることはなく、通常の能楽堂より列数はありますが正面席後方でも観やすそうな、まだまだ新しい綺麗な能楽堂でした。ただ、中正面席前方がちょっと曲者かも(苦笑)。私は脇正面や中正面を選ぶことが多いのですが、ここだったら素直に正面席がオススメかもしれません。ちなみに本公演は脇正面席で鑑賞させて頂きました。何となく脇正面席が好きなんですよー♪

最初に太一郎さんの挨拶が5分程ありました。解説はパンフに書いてあるので割愛し、自分や師匠を含め色々な方からの挨拶文を掲載してるので、休憩中にでも是非読んで欲しいという内容でした。あと後ろにWEBアンケート用のQRコードが載ってるよってお話。これ、言ってくれなかったら気づかなかったかも(苦笑)。お、流石若者らしい発想だなと思うと同時に、GLAYのライブでもWEBアンケート形式なので、個人的にはこっちの方が帰宅後にゆっくり感想を書けるから有難かったりするのですが、万作さんや萬斎さん世代の客層を考えると、全部コレにしろっていうのはムズカシイか…(苦笑

新作能「白雪姫」については、地方で何度か上演し、演者も慣れ、そして洗練された結果、上演時間1時間20分だったのが、1時間10分まで短縮できたとのこと(10分の短縮…客席から大いにウケてましたw)。長丁場の番組構成でしたが、楽しい時間はあっという間ということで、時の流れが早く感じました。これには、楽しいことが大好きだったという万之丞さんも満足している会になったのではないでしょうか。

狂言「蝸牛」

主人(茂山千之丞)から長寿の薬としてカタツムリ(=蝸牛🐌)をとってこいと命じられた太郎冠者(茂山逸平)だったが、そのカタツムリがどんなものか知らないので、藪の中で寝ていた山伏(茂山千五郎)をカタツムリかと思って尋ねる。山伏はあきれるが、無知な太郎冠者をからかってやろうと、自身がカタツムリだという特徴を見せて信じさせてしまう。山伏は囃子物にのって行こうと、太郎冠者に囃させ「♪でんでんむしむし」と音頭をとり戯れている。一方、太郎冠者の帰りが遅いので主人が迎えにくると、両者の戯れに驚いて、太郎冠者にあれは山伏だと教えるが、山伏の術にかかり、最後は主人までも引き込まれ、ともに浮かれながら帰って行く(了)

*・*・*

大蔵流の名門・茂山千五郎家による狂言「蝸牛」でした。演目のあらすじは知ってるのですが、大蔵流を観るのも「蝸牛」を生で観るのも初めてでした。狂言的に山伏の勝利で終わるのは珍しいですね。ラストは全員楽しそうに浮かれたまま終わりましたが、これは大蔵流ならではの終わり方で、和泉流では正気づいた太郎冠者と主人を山伏が打ち倒して逃げていくそうです(笑)。

茂山千五郎家では親しみやすい狂言をめざして芸風を「お豆腐狂言」と表現しているようで、とても楽しませて頂きました。皆さん、発声が綺麗でボリュームあって凄い迫力でした。

狂言「武悪」

不奉公者の武悪(野村萬斎)を討つよう主人(野村万作)に命じられた太郎冠者(野村太一郎)は、やむなく太刀を受け取り討っ手に向かう。太郎冠者は、武悪に川魚の進上を勧め、生け簀に入ったところを後ろからだまし討ちにしようとするが、友情が先だって斬れず、命を助けることに。そして武悪には遠くの国へ逃げるよう指示し、主人には武悪を討ったという嘘の報告をする。

偽りの報告を受けた主人は、太郎冠者を連れて東山へ赴く。一方の武悪も、命が助かったのは清水寺の観世音のおかげだからと、遠くの国へ逃げる前にお礼参りへ向かう。そして鳥辺野の辺りで両者が鉢合わせてしまい、太郎冠者の入れ知恵で武悪は幽霊になりすますことに。武悪の幽霊が出たと聞いた主人は急に怖気づき、幽霊を装って現れた武悪は、あの世で大殿様に会ったなどとでたらめを述べ、その大殿様の注文と称して、怖がる主人から太刀、小刀、扇を預かったうえ、最後には、あの世に主人を同道するよう頼まれたと脅し、逃げる主人を追い込んでいく(了)

*・*・*

狂言としては珍しく上演時間55分という長編もの。主人に殺されそうになった奉公人が、最後は成り行きでその主人に仕返しをするという、まさに狂言らしい演目なのですが、冒頭は笑い一切ナシのシリアスなシーンで「武悪を討ってこい」と太郎冠者に命じる万作さんの姿は、まさに迫真の演技で時代劇の真面目なシーンを観ているようでした😱(オソロシヤー

前半が萬斎さん&太一郎さん、後半が万作さん&萬斎さんの師弟コンビのやり取りがメインになっており、その配役構成も面白かったなと。前半は奉公人同士の友情が描かれ感動的ですが、その後、武悪と主人が鉢合わせてしまったシーンでは、逃がした武悪の存在を隠したい太一郎さんと、武悪の存在を確認したい万作さんの攻防にはめっちゃ笑いました🤣ww(てか、万作さん可愛かった。ピョンピョンするあの動きはズルいし、年齢的に凄い。

そして幽霊のフリをすることにした武悪は…👻

という事で、萬斎さんお得意の抑揚のあるチャーミングな幽霊ボイスで、あの万作さんを追い詰めていくのが、これまた楽しい😁 後半は武悪が幽霊のフリをするために、黒頭と白い水衣を身につけて登場するので、姿が変わって二度美味しい的なところもあり(笑)、萬斎武悪もめっちゃ可愛くてお気に入りになりました。

長編なだけにドラマティックな構成で、3役ともそれに見合った素晴らしい配役でした。👍✨

狂言「鬼瓦」

訴訟のため長らく都に滞在していた田舎大名(三宅右近)が、すべて片付き帰国の運びとなったので、太郎冠者(三宅右矩)を連れて日ごろ信仰する因幡薬師へお礼参りにやってくる。帰ったら御堂を建立し薬師如来をお招きしたいと考えた大名は、堂を建立するための参考として建物を見学していると、ふと屋根の鬼瓦に目を留め、国元に置いてきた女房の顔にそっくりだとおいおい泣き出す。もうすぐ会えるではないかという太郎冠者の慰めに気を取り直し、二人で声を合わせて笑いとばす『笑い留』の手法で締めくくる(了)

*・*・*

和泉流「三宅狂言会」の三宅右近師・三宅右矩師親子による狂言「鬼瓦」。15分程度の短編もの。妻の顔が鬼瓦に似てるって…(苦笑)。でも、それが恋しくて泣いてしまうほど、この大名は鬼顔も含めて妻のことが好きなんですね。なんだァ、惚気話だったかァ(笑)。当時は地方裁判所なんて無かったので、訴訟があると単身赴任しないといけなかったのですね。そんな当時の生活事情も感じ取れる狂言でした。

ところで息子の右矩さん、俳優の要潤さんに似てますね(横から見ると特に)。右近さんも右矩さんも声にボリュームあって、最後のイキの合った笑いの型も凄い迫力でした。これだから前方の席で観るのやめられないのヨ。

新作能「白雪姫」

構成:五世 野村万之丞
演出:野村太一郎
監修:野村萬斎

父・万之丞さんの遺した新作能「白雪姫」が太一郎さんの演出で蘇る!
(万之丞さんの時代では“おとぎ狂言”として上演していたようですが…)

ということで、2年前はコロナのせいで無観客にて収録し、DVD作品としてのリリースでしたが、その後、地方での公演を繰り返し、満を持して東京初上演となりました。ちなみに生で観るのを楽しみにしていたので、事前にDVDは観ていません。

*・*・*

むかしむかし、とある国のお城に「白雪姫」と呼ばれる美しい王女様(坂口貴信)がいた。

白雪姫の継母である王妃(野村太一郎)は「美」への拘りが格別に強く、また「魔法の力」を持っており、この力で家来の男を鏡に閉じ込め、真実しか言えないように呪いをかけた。以後、その男は王妃に仕える、鏡の精(大槻裕一)となった。

王妃は鏡の精に「この国で一番美しいのは誰?」と聞き、「それは王妃様、あなたです」の答えに満足する日々だったが、ある日、いつもの問いに「それは、白雪姫」という答えが返されたことに激怒。太郎冠者(野村裕基)に白雪姫殺害を命じ、証拠として姫の「心臓と肝臓」を切り取って持参するように言う。太郎冠者はそんな白雪姫を不憫に思い、殺さずに森の奥に住む小人の家へ行くように指示し、彼女を逃すことにする。そして太郎冠者は代わりに猪を狩って、そのハツとレバーを持ち帰ることに。。。

一方、森に残された白雪姫は、7人の小人(深田博治・内藤連・中村修一・月崎晴夫・岡聡史・石田淡朗・高野和憲)に会いに行き、かくまってもらうことになる。しかし、真実しか言えない鏡の精のせいで、白雪姫がまだ生きていることを王妃に知られてしまう。そして白雪姫は小人たちの留守中に、林檎売りの老女に成りすました王妃からもらった毒林檎🍎を口にして息絶えてしまう。

7人の小人が嘆き悲しむなか、蘇生の可能性があることに気づいた小人たちは祈りを捧げる。そして助けを求めた太郎冠者に連れられて隣国の王子(観世三郎太)が登場。王子は魔女である王妃を打ち倒して、呪いを解き、白雪姫を生き返らせる(ついでに鏡の精も元の姿に戻る)。そして二人は喜びの「舞」を舞い、幸せに暮らしていくのであった。

*・*・*

新作能とありますが、笑いの要素も多く、能と狂言の融合といった方が近いかもしれません。時代設定どうなってんのよ!?という現代語まで飛び出して(笑)最後まで楽しく観ることができました(これぞまさしく眠くならない、お能!?😳)。

そして・・・

お能独特の白雪姫の美しさには心奪われました✨
本当に美しいものを観ました✨

装束や面のチカラもありますが、それ以上に演者の所作やオーラがそうさせたように感じます。また7人の小人を狂言方で固めていたので余計に際立って見えたのかもしれません(一国の姫に遠慮なく雑用を押し付ける小人たちとブレない白雪姫には笑いました🤣)。

万作の会の皆様が演じる小人たちは、各々のイメージに合わせたキャラ設定で、めっちゃ可愛かったです。これは絶対観た方がイイ!ってくらい可愛かったです。てか、高野さんだけお髭をおさげ状態にしてるし、最後オイシイところ持っていくし(途中で拍手が起きるって珍しいよね)ズルい!好き!w

最近「にほんごであそぼ」にも出ている、観世三郎太さんの直面の王子様はとてもカッコ良かったです。クライマックスの女王とのバトルは必見。舞も素晴らしかったです。あと白雪姫は普通のお能と変わらない和装なのにティアラがナチュラルに似合ってたのが意外でした。白雪姫の美しさがそうさせたのでしょうか(女王様も付けてたけど元から異質な雰囲気を漂わせてたので、これはこれで違和感なかった)。

裕基くんの太郎冠者も良い味出してたし、大槻裕一さんも鏡の精で出られてて(しかも最後、シテ方の裕一さんが太郎冠者の装束身につけてたのって貴重だと思うのですが…?)、能 狂言「鬼滅の刃」の公演前にこの公演を観れて良かったです。鬼滅は萬斎さんの演出なのでどうなるか予測不能だけど、シテ方と狂言方が共演した時のイメージがしやすくなったというか。若手中心で活気に満ち溢れてたのも良きでした。

そして主演の太一郎さん演じる女王様。美に執着する恐ろしさがよく出ておりました。最終的には魔女の本性が現れて鬼の面👹になってしまい(鬼は鬼でもちょっと変わった面だったようにも思います。詳しくないので何とも言えないけど)、本当の美しさとは何か?を考えさせられました。私には子供が居ないので童話は遥か昔のモノになっておりましたが、今回こういう形で久しぶりに童話に触れるのも悪くないなァと感じました。心が洗われるし、潤って満たされる。そんな気がします。

おまけ。観世能楽堂とスヌーピーのコラボ商品が可愛かったので買ってしまった。お能スヌーピー可愛すぎるだろォォ!今回は金欠故かなり悩んでこの二つにしたので、また行ったら買ってしまいそう。。。

▼前回の能楽鑑賞日記はコチラ

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