二人から愛された主人公のお話【能楽観賞日記】#4

2022年5月5日(木)
第二十四回 加藤眞悟 明之會

今年のこどもの日は能楽鑑賞のため、国立能楽堂へ。この加藤眞悟師による「明之會」は毎年行われてるようで(去年はコロナのせいで延期になったようですが)、更にGW中に行われてる他公演も同じように毎年の恒例公演になってるようなので、意外とGWというのは能楽を楽しむチャンスなのかもしれない。毎年ゴロゴロするだけの連休だったけど、能楽鑑賞が趣味になったお陰で今年は有意義に過ごすことができました。

開演直前に加藤眞悟師より、無事24回目を迎えられたことに対するお礼のご挨拶がありました。能舞台ではなく見所(観客席)でのご登場でした。その後、表きよし教授による、能「求塚」の解説へ。とても聞き取りやすいお声と話し方で、自分も予習していたとはいえ、とても分かりやすかったです。

仕舞は薙刀を使った舞「熊坂」がカッコ良くて印象的でした。いつかお能でも観てみたい。他の仕舞も、紋付袴だと能楽師さんの体の動きというか、気の纏い方みたいなものが分かりやすい気がしました。なんか勉強になりました。

狂言「鈍太郎」

西国への独り旅から3年ぶりに帰京した鈍太郎(演:野村萬斎)は、まず本妻(演:中村修一)の居る自宅へ向かうが、3年も音沙汰がなかったため本人と信用されず、若い衆のいたずらと思った妻は「棒使いを男にもった」と嘘で脅して追い払ってしまう。そこで鈍太郎は、次に上京の妾(演:野村裕基)を訪ねるが、やはりこちらでも若い衆のいたずらと思われてしまい、妾も「薙刀使いを男にした」と嘘で脅して追い払ってしまう。帰る家を失い気落ちした鈍太郎は、出家し旅に出る決意をします。

その後、訪ねてきたのが本物の鈍太郎であったことを知った妻と妾は、互いに協力しあい鈍太郎を引き留めに向かいます。2人に引き止められた鈍太郎は、なら1ヶ月のうち25日間は妾の家へ、残り5日間は妻の元へ帰ろうと提案します(この極端な提案に先日見た狂言「引括」を思い出しちゃったわよw)が、もちろん妻はこの不平等さに激怒。妾も、本妻にもう少し優しくしてあげて欲しいと頼み、それでは、小の月(陰暦)でも1日多いように月の前半15日を妾の家、後半を妻の家へ行くことに決め、妻もそれで妥協します。

そして、調子に乗った鈍太郎は、当時こども達の間で流行っていたという「手車」に乗って帰りたいと言い出し、女二人に手車をさせて「これは、誰の手車〜♪」「これは、鈍太郎殿の手車〜♪」と謳いながら意気揚々と帰っていくのでした(了)。

どうやら鈍太郎にとって妻はわわしい女、妾はかわいい女、ということらしく、妾の方を露骨に可愛がるところが笑いどころなのですが、現代の既婚女性からしてみれば、ムッとしてしまいそうな内容かもしれない(苦笑)。まぁ、古典を今の価値観で語るのもナンセンスだと思うし、何より演者が、あの「あぐり」の「エイスケさん」を人気キャラにしてしまった萬斎さんですからねェ。むしろ、この鈍太郎は二人の女性を虜にするほど、駄目男なのにどこか憎めない、そんな魅力があるのかも!?😳と思ってしまいました(笑)。

さらに意気揚々とした鈍太郎のアクロバティックな動きなんかもあったりして、個人的には萬斎さんの魅力が十分楽しめる演目で、とても面白く、「これは、誰の手車〜♪」「これは、鈍太郎殿の手車〜♪」が暫く耳から離れなかったです(笑

能「求塚」

ふたりの男に求婚された菟名日処女(うないおとめ)という女性が、二人とも甲乙付け難い男性だったため、どちらも選ぶことができず、最終的には自ら命を絶ってしまう。すると男たちも女の後を追ってしまい、このことが原因で女は地獄に落ち、責めを受け続ける…という救いのない悲劇を描いた作品です。

あらすじを知った時、菟名日処女は相手を惑わせたわけでもないのに(勝手に好かれただけなのに)、そこまで酷いことをしたのだろうか?と感じましたが、二人の男性に好かれ、結果的に相手の命まで奪ってしまったことが、菟名日処女の科(とが)になってしまうようです。…うーん、無理矢理にでも、どちらか片方選んでおけば良かったのだろうか?現代ドラマでもよくありそうな題材だけど、どちらも選ばないのは罪ですかね?(汗

前半の可愛らしい女性の面を付けた菜摘女の姿と、後半のやせ衰えた面を付けたた菟名日処女の亡霊の姿のギャップが、地獄の恐ろしさを表してるようで印象的でした。

何より狂言「鈍太郎」の後に、能「求塚」という番組構成が素晴らしい。二人から愛された主人公という共通点を持ちながらも、喜劇を描く狂言と悲劇を描く能の特徴から、男女で対照的に描かれており、今回の公演そのものが印象的に心に残りました。

ちなみに後日、萬斎さんのラジオに感想を送った際に丁寧に答えて頂いたのですが(感謝感激雨嵐です🙏💦 )この日の狂言の演目に「鈍太郎」を選んだのは、萬斎さんご自身とのことで、能と狂言の演目に共通点が多くなればなるほど、能楽の公演そのものの面白みが増していくんだなァと気付かされた公演でもありました。

余談ですが、今回は初めて中正面(しかも最前列)で鑑賞しましたが、意外と柱があっても良く見えたので、演目にもよると思いますが、中正面も悪くないなと思いました。てか、下手に正面席後方になるくらいなら、中正面前方の方が良いかも。斜めから舞台を観るというのが、正面や脇正面とはまた違った見え方で、橋掛りも全体が見渡せるし、これはこれで面白いと思いました。

▼前回の能楽鑑賞日記はコチラ

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