What’s SAMBASO -古典芸能の可能性-【能楽観賞日記】#68

杉原邦生×木ノ下裕一による学校では教えてくれない舞台芸術の解体図鑑

What’s SAMBASO-古典芸能の可能性
神奈川県立青少年センター 紅葉坂ホール
2023年7月23日(日) 14:00開演

劇場の柿落としなどでよく上演される『 三番三(三番叟)』とは、どのような演目なのか?
知りながら観る、楽しみながら感じる 学校では教えてくれない私たちの国の古典芸能の可能性。
木ノ下歌舞伎主宰・木ノ下裕一によるレクチャーで演目の歴史的理解を深め、狂言能楽師の三世 茂山千之丞による『三番三』の実演でいま現在に継承される芸を鑑賞し、演出家・杉原邦生を加えた3人によるクロストークで古典芸能の可能性を感じていただく、これ以上にない贅沢なエンタテイメントレクチャープログラム。
私たちの国の古典芸能が持つ力とその可能性はどのようなものなのか、「知って・観て・感じ」ながらたのしく学びましょう。

三世 茂山千之丞 [しげやま・せんのじょう]
大蔵流狂言方。1983年4月2日生まれ。
本名 茂山童司。茂山あきらの長男。父および祖父二世茂山千之丞に師事。

杉原邦生 [すぎはら・くにお]
演出家、舞台美術家。KUNIO主宰。1982年東京都生まれ。
2004 年、プロデュース公演カンパニー“KUNIO”を立ち上げる。

木ノ下裕一[きのした・ゆういち]
木ノ下歌舞伎 主宰。1985年和歌山市生まれ。
小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時に独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学ぶ。

神奈川県立青少年センター開館60周年記念&
紅葉坂ホールリニューアルオープン記念

…を兼ねた三番叟(三番三)に特化したスペシャル企画。

ということで、初めて行きましたが、紅葉坂ホールの内装がキレイで椅子のデザインも可愛くてフカフカで、全体的にお洒落な雰囲気のホールでした。

茂山千之丞師の『三番三』、初めて観ましたが、杉原邦生氏の演出効果もあって、とてもハッピーな気持ちになれる素敵な三番三でした😆✨

今年に入ってからは、岡さん→萬斎さん→又三郎さん→太一郎さんと、色んな方の三番叟を観る機会が増えて来た中で、ついに大蔵流の『三番三』を観る機会を得たということで、この日をとても楽しみにしていたのですが、思い切って行って正解でした。

*・*・*

●プログラム1「知る」

まずは、木ノ下歌舞伎主宰・木ノ下裕一氏による三番三(翁)のレクチャー。
萬斎ファンとしては、能狂言「鬼滅の刃」の原案台本を担当したことでもお馴染みの方。

※和泉流では【三番叟】、大蔵流では【三番三】と表記するので、今回は大蔵流の【三番三】表記を基準に書いていきます。

古典オタクの木ノ下さん。
軽快なトークで、三番三が翁の演目のひとつであることや、その歴史を説明。

諸説ありますが、木ノ下さんは、三番三は「翁」の“もどき”説を推してるそうです。この辺はググると色々出てくるので、調べてみると面白いかも。

今回は中高生もたくさん観に来てたので、
分かりやすい例えはないかと考えた結果↓

翁=大トトロ(動きがほぼ無い)

千歳=中トトロ(行動するようになる)

三番三=小トトロ(より行動するようになる)

…に、例えてました😂

翁が言った意味不明な言葉を、千歳が訳して、それを三番三がさらに分かりやすく訳す、段々もどいていく、って事を視覚化しようとしたんでしょうけど、後のクロストークの時に、演出家の杉原さんに「例えが古い!」と、突っ込まれてました😂

(確かにトトロってウチらが子供の時の作品🤣)※今回の登壇者たちと私もほぼ同世代です

さらに、お囃子のリズムでテンションが上がる感じを「ディスコ」に例えてて、これも「今はクラブって言うんだよ!」って突っ込まれてました🤣

*・*・*

●プログラム2「観る」

いよいよ、狂言師・三世 茂山千之丞師による『三番三』の実演

能舞台の柱は、杉原邦生氏の演出によって紅白に塗られており、鈴ノ段の締めでは、良いタイミングでバックに紙吹雪が舞い散り、終わりと共に金テープが飛んでくるという、音楽ライブばりの特別仕様でした😳✨

縁起物?

杉原氏曰く、おめでたい感じ出すなら、紅白&金テープでしょ!とのこと👍✨
ちなみに予算の都合で文字入りには出来なかったとのこと😂

この特別演出は、千之丞さんのキャラクター的にも相性が良かった気がしますね。ちょっと感動しちゃいました✨

というのも、先程のレクチャーで、翁(三番三)というのは、おめでたい事があったから祝う儀式ではなく、『予祝』(未来の姿を先に喜び、祝ってしまうことで現実を引き寄せること)なんだよ、と言っていたのですが、千之丞さんの掛け声は、まさに幸福を呼び寄せるようなお声で、心がとても晴れやかな気分になりました😌✨

ンで、動きの方ですが、和泉流でもお家が変わると舞の形も変わってくるのは、萬斎さんと又三郎さんの三番叟を見比べて分かったので、大蔵流だともっと違うのかしら?🤔と予想はしていたんですけど、実際に観て、やはり通ずる部分はあるものの、動き方は違いましたね。烏飛びも、位置も違えば、飛ぶ毎に手の形を変えてて和泉流と比べると独特でした。

揉ノ段では、力強い足拍子と上半身の柔らかい動きのコントラストが観ていて心地よかったです。踏む動作は力強いのに、くるっと回る時は、その場の空気を纏うかのような、もし風が吹いてたら、その風に乗るような、妖精のようにフワッとした舞い方をしてるのが印象的でした。

鈴ノ段では、万作家の三番叟は、いかにも種蒔きって感じなのですが、こちらは上から振る動作が前半多くて、空から地上に向けて撒いてるかのような…そして時折、鈴から視線を逸らして振ってる姿が何となく神様っぽくて(笑)。となると、和泉流の方はちょっと庶民的、なのか?🤔

そして後半は和泉流と同じように腰を屈めて鈴を振るんだけど、それが何となく、やっと空から地上に降りてきたかのような動作に見えました。

また和泉流と違うのは、和泉流は静から動へ、クライマックスに向けてテンションが上がって行くのに対して、大蔵流は最後の鈴開きに向けて、静かなままで力をためて、一定のテンションを保つところ。

千之丞さん曰く、ずっとトイレに行くのを我慢して我慢して我慢して、最後の最後に、トイレ行けたー!\(^o^)/…って感じらしいです(笑)

*・*・*

●プログラム3「考える」

ココで演出家の杉原邦生氏も加わり、木ノ下さん、千之丞さん、と3人でクロストーク。

2018年に上演した、木ノ下歌舞伎版(現代版)『三番叟』の映像を観ながら、古典芸能の可能性について語り合いました。

創作された現代版の三番叟は、ヒップホップ寄りでかなり斬新なものでしたが、杉原さんの提案で、千之丞さんレクチャーのもと、まずは元の三番三の動きを演者に覚えさせた、と言うなだけあって、ジャンルが変わっても通ずるものは確かにありました。

てか、能楽よりも古いとされる『翁』を能が取り入れ、後に歌舞伎や文楽が誕生すると共に、それらもまた、三番叟をもどいて取り入れてる事を考えると、現代版の三番叟があっても何らおかしくはないわけで。

当時ワールドカップがあったので、衣装の色は日本を感じられるものとしてサムライブルーを採用。
その話を聞いた千之丞さんは「今日の三番三の装束の色も青にすれば良かった〜!」と言い、実は初日の正装の色は青、2日目は黒、という決まりがホントはあるそうです(今回は黒を着用)。

お話を聞いていて、杉原さんは、現代劇を演出する上でも、演劇のルーツとして古典芸能は知っておくべきと考えてるようで、とても信頼できる方だなと思いました(8月の歌舞伎座『新・水滸伝』の演出は彼なので)。

そんな杉原さん、とある能楽師に、

「三番叟の意味は何ですか?」と質問したところ
「儀式なので意味は無いです!(キリッ」と言われ、

「ならお客さんに伝えたい思いとかは?」
「儀式なので無いです!(キリッ」

全部これで返され、引き下がるしかなかったとのこと(苦笑)

結局『翁』の演目が最古のものなので、本来の意味は無くなってしまっており、誰も分からない中で、それぞれが解釈して伝えて来た結果、お家毎に微妙に形が違うものになったのではないか、と千之丞さんが触れておりました。

あと別火(身を清めるために一定の期間、神聖な火を用いて生活を送り、煮たきや暖房の火を家族と別にする)については、千之丞さん曰く「別火をやったことがあります、という人に会った事があります。というレベルです」とのこと。千之丞さん含め、今はもう別火を行ってる人は殆ど居ないようですね(ただしゼロではない)

木ノ下さん曰く「昔は火だから別に出来たけど、今は電気ガスだもんね。分けようがないよね」とのこと(確かに大元を辿れば、みんな、◯◯ガスとか、◯◯電力とかですしね😂)

あと過去に3日間だけ別火を実行した人が、3日目の当日の朝は自炊が面倒でカップ麺を食べた、なんてエピソードも飛び出しました😂

千之丞さんは今回が40代になって初めての三番三だったのですが、木ノ下さんからの、これまでに何回演ったのかという問いに対して、30〜40回くらいかなと(マメな性格じゃないから正確には覚えてないと😂)。

初めて踏んだのが20〜21歳とのことなので、年に1〜2回のペースなのかな🤔(改めて推し様の三番叟の公演数が異常な回数だと実感する😂)

最後に質問コーナーが設けられて、客席のオジサンが、MANSAIボレロ(😳⁉)に絡めた質問をしてくれたお陰で、千之丞さんが和泉流の三番叟にも触れてくれたんだけど、和泉流の方が尺が長く、また振りも多くて、動きも能動的とのこと

コレは新たな発見でしたね。やはり内側だけでなく、外側から見ることで視野が広まるなァと改めて感じました。次に推し様の三番叟を観る時に、また新鮮な気持ちで観ることが出来そうです😌

ちなみに同じ大蔵流でも山本家の三番三は、また動きが違ってくるそうですよ。こちらもいつか機会が巡ってきたら良いなァ😌

▼前回の能楽鑑賞日記はコチラ

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